唇だけ浮かないか心配だったけれど、塗ったそばからじわりと溶けて、意外にも肌馴染みは良かった。さすが茜さんが監修しただけのことはある。
「最後にこちらをお召しになって下さい」
そう言って足元に置かれたのは、透き通ったハイヒール。これはまるで――
「ガラスの靴みたい……」
思わず呟くと、「ええ」と肯定の返事が返ってきた。
「まさにガラスの靴をイメージしてつくられたものです。特別な日に履きたいと、希望されるお客様も多いんですよ」
「そうなんですか……」
「ドレスも青ですし、まるでシンデレラですね」
シンデレラ。脳内でその響きを反芻する。
シンデレラと聞いてみんなが思い浮かべるのは、青いドレスにガラスの靴、それから隣に王子様。
でも本当の姿は、真っ直ぐで前向きな性格が取り柄なだけの、ただの村娘だ。時間制限付きの、淡く儚い夢物語。最後にハッピーエンドを迎えられるのは、王子様が彼女を愛し、探し続けたから。
きっと、みんな夢に憧れ焦がれている。たった一人、愛する人の大切な存在になりたい。魔法が解けた後も、ずっと、ずっと。
「さあ、お連れ様がお待ちですよ。行きましょう」



