きゅ、と後ろでコルセットを締められ、口を噤む。昔からこの感覚はなかなか慣れることができないのだ。
ドレスを着終わると、今度はドレッサーの前へ。青い造花の髪飾りや、イヤリング、ネックレスなど、次々に鏡の中の自分が着飾られていく。
「お綺麗ですよ。こちらではお化粧をすることができないので、残念ですけれど……」
店員の方が言う通り、メイクも何も施していない自分の顔面は、どことなく頼りなさげにも見えた。
その時、試着室のドアが開いて、もう一人の女性店員が入ってくる。
「失礼致します。こちらお客様のものでしょうか?」
彼女が差し出したのは、一本のリップ。以前蓮様がモデル撮影をした際、使用していた色だ。記念にと、茜さんから発売日に贈ってもらったものである。
着ていたスーツから落ちてしまったのだろうか。
「あ、そうです! すみません、ありがとうございます……」
受け取ろうとした刹那、「あ」と背後から声が上がる。
「お客様、こちらの口紅を使っても?」
「ああ……はい、どうぞ」
使用する機会もなく、お守りのように燻っていたそれ。蓋が開けられ、真っ赤な本体が顔を出した。改めて見ると、燃えるように濃い色である。
「まあ、華やかですね。お客様は色白ですから、赤が良く映えます」



