魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



訳も分からぬまま車を降りて、蓮様のお顔を窺う。彼は落ち着き払った声で、不服そうに述べた。


「パーティーだっていうのに、何でスーツで来るの。ドレスコードは守ってよ」

「え、あの、」

「行くよ」


もしかしなくても、これは私のドレスを調達するためにここへ来たということだろうか。

颯爽とお店へ向かって歩いていく蓮様だったけれど、私はちらりと茜さんを振り返る。未練があったわけではなく、純粋に彼はこの後どうするのだろうと気になったのだ。


「……茜さん、」

「百合。また、いつか」


別れの挨拶を告げた彼は、再びハンドルを握る。
楽しんで。車が横切っていく直前、彼の唇は確かにそう動いた。


「佐藤。早く」

「はい! 只今!」


痺れを切らしたような蓮様の声が私を急かし、慌てて踵を返す。

店内は照明の明るさももちろんだけれど、スパンコールやラメがきらきらと反射して眩しかった。奥へと進んでいく彼の背中を追いかけながらも、あちらこちらに視線は奪われる。

中でも、淡いブルーとすみれ色が溶け合ったようなシフォン生地のドレスを見かけた時、あまりにも綺麗で見惚れてしまった。


「これがいいの?」