案の定、父が切り出したのはその話題だった。
何かのタイミングで例の広告を見たのだろう。こうなることが分かっていたから、やめておくべきだったのに。どうしてあの時、感情に任せて行動してしまったのか。


「化粧のCMだったか……誤解されたらどうするつもりだ」

「誤解、とは何のことですか」

「お前に妙な趣味があるとなったら、印象が悪くなるだろう。頼むから、もう少し危機感を持ってくれ」


妙な趣味、か。乾いた笑みが零れる。
あれは単なる化粧じゃない。男性用の化粧だ、と――そう言ったところで、伝わる気はしなかった。

別に自分は性別を変えたいわけでもないし、メイクを特別したいというわけでもない。「五宮蓮」という人間から、逃げたかっただけだ。そのための手段にすぎない。

だけれど、世間からしたらこれは異常で「気持ち悪い」のだろう。周りを見ているうちに、何となく分かった。

自分は、夢を見ていたのだ。気味悪がるどころか、綺麗だなんだと言い募るイレギュラーが現れてしまったから。
もしかしたら自分が思っているよりも、世界は優しいんじゃないかと希望を抱いてしまった。


『わざわざ女装までしてついてくるなんてさ……正直、気持ち悪いよ』