口を噤んだままの森田さんに一礼し、足早に自室へ向かう。
着替えようとボタンに手を掛けた時、スマートフォンの画面が明るく灯って、着信音と共に震え始めた。
「はい。もしもし」
「やあ。元気?」
通話ボタンをタップした時点で相手は分かっていたけれど、能天気な彼の声を聞いて、何だか力が抜けた。
どうしたんですか、と問えば、もう一度「元気?」と詰められてしまう。
「元気です。茜さんは、」
「嘘だね」
「……元気ですよ。風邪は滅多に引かないですし」
彼の意味する「元気」が、純粋な体調のことのみを指しているわけではない。もちろんそれは気付いた上で、私は見栄を張りたかった。
「いま時間大丈夫?」
「はい、まあ……」
ベッドに横たわり、真っ白な天井を見つめる。スーツが皺になってしまうな、と頭の片隅で考えていた。考えただけで、起き上がろうとは思えない。
「この間はありがとう。おかげで売り上げも上々だよ。彼にも伝えておいてくれないかな」
「……はい」
「君に頼んで正解だった。僕の目に狂いはなかったね」



