魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



私の成績を事故扱いしないでいただきたい。
しかし時刻はまもなく八時になるところだ。葵様がお休みになる時間である。

渋々草下さんを釈放した後、私は改めて目の前の真犯人を軽く睨み上げた。


「ンな怒んなって。じめじめした季節には明るいニュースが必要だろ?」

「人の失敗を面白可笑しく語り継ぐのがあなたの正義なんですね……」


これ以上取り調べを続けても平行線で終始する気がしたため、諦めて視線を外す。
森田さんは数秒の沈黙の後、「いや、マジで」と切り出した。


「最近全員の空気重いし。俺は場を和ませようと思ってだな」

「……全員、といいますと」

「蓮様もそうだけど、お前も、竹倉も木堀も……とにかく、全体的に重い」


意外な発言に、果たして本当にそうだろうか、と少し疑ってしまう。蓮様のことでいっぱいいっぱいだったので、周りに目を向けている余裕がなかった。


「葵様は置いといて……草下、あいつは割と鈍いからあんなんだったけどな。何でお前まで陰気臭くなってんだよ。何も知らねえだろ」

「え?」


何も知らない、とは?
ざわりと胸の奥が蠢く。突然氷水に浸けられたかのように、脳が冷えきった。


「もう時期、帰ってくる。蓮様の婚約者が」