小声で彼に投げかけると、蓮様は「何で?」と顔をしかめた。
「私がいると気が散るかと思いまして……」
「だから、何で。どこにも行かなくていいから、ちゃんと見てて」
むすっとしたまま不機嫌全開で言われてしまい、緩慢に頷く。
そんな私たちを横目に、茜さんが不意に笑みを浮かべた。
「百合」
「は、はい」
「彼のメイクは君に託すから、もっかい撮り直そう。もちろん、撮影もちゃんと立ち会ってよ」
「え……!?」
私がメイクを!? いや、確かに普段やってはいるけれど、こんな大事な撮影のメイクをするのはさすがにまずいのでは!?
断ろうと口を開きかけた時、蓮様に袖を引かれて振り向く。
「佐藤」
――僕に魔法をかけて。
薄い唇が確かに紡いだ言葉。声にこそ出さなかったけれど、口の動きだけで伝わる。私には、分かった。
蓮様と共に案内されて入ったのは、壁一面に大きな鏡が取り付けられたメイクルーム。彼は先程ここで今のメイクを施されたのだろう。
用意されているコスメは多種多様で、ここにあるものは全て自由に使っていいとのことだった。
「蓮様。あの……」



