魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



私としてはすごく勇気を振り絞ったつもりだったのに、彼はあっさりと――でも、真剣な顔つきで断定する。
それから私の目を真っ直ぐ射抜いて、その口端を愉快そうに持ち上げた。


「ねえ。僕と一緒に、ブランド立ち上げてみる?」


悪戯を思いついた少年の顔で、彼が言う。今にもテーブルクロスをわざとひっくり返してしまいそうな、そんな危なさを含んで。

それがどれほど魅惑的な響きだったか。
答えは私の心臓が知っていた。はやる鼓動も、急に輝いて見える世界も、好奇心と期待で爆発してしまいそう。


「……冗談、ですか?」


やっとの思いで喉から出した声は、震えていた。


「冗談でこんなこと言うほど僕も暇じゃない。まあモデルの件も合わせて考えてみてよ。これ、僕の連絡先」

「あの、」

「決まったら連絡して。じゃあね」


再びサングラスをかけた彼は自らハンドルを握って、信号を越えていってしまった。
渡された名刺に視線を落とし、それを握る手には意図せず力がこもる。


「三園(あかね)……」


その名前に相応しい茜色の夕陽の下、赤い彼の車が見えなくなるまで立ち尽くした。