魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



僅かに動揺の色が見えた竹倉さんだったものの、表情は既に元通りだ。

先程と同じようにそれぞれ向かい合うようにして待機し、竹倉さんの合図で始まる。

彼がこちらへ近付いてきて、腕を振りかぶった。
それと同時に、私は彼の眼鏡に手をかけ――


「あ、」


勢い余って、すこーん、と宙に飛んで行ったそれ。
空中から芝生へ落ちていく一連の流れが、まるでスローモーションのように映った。


「ご――ごめんなさい! ちょっとずらそうと思っただけだったんです……! わああ、壊れてないかな……」


本気で対峙するとなったら相手の急所を狙うのが一番だ。でも今はあくまでも「役」だったから、怪我のないように、ということで、彼の眼鏡を少しずらせば勝機があるかと思ったのである。

再び場が静まり、目の前で呆然と立ち尽くす竹倉さん。あ、違う。もしかして眼鏡ないと何も見えないのかな。

急いで眼鏡を拾いに行き、割れていないか確認する。レンズもフレームも、見た感じでは支障なさそうだ。


「本当にすみません……もし買い替えるとなったら弁償するので、」