息を呑む。まさか彼の口からそんな言葉が出てくるとは思わなかった。
温厚な椿様のことだ。スマートに謝罪して、また普段通り並んで歩く二人の姿が見られるのだとばかり。

しかし、どうしても腑に落ちなかった。
椿様の昨日の発言で蓮様が傷ついたのは事実だろうし、椿様だってそれは分かっているはずだ。現に私には謝っているのだから。

だったら一体、なぜ。彼は頑なに譲らないのだろう。
中途半端とは、何を指して言っているのか。それが理解できない限り、私が首を突っ込んでも致し方ない気がした。


「椿。お前、まだ桜のこと……」

「百合ちゃん、立てる? スカート汚れたんじゃない?」


蓮様が言いかけたのを遮り、椿様が私を促す。
彼の手を借りて立ち上がりながら、「大丈夫です」と曖昧に微笑んだ。

私には分からない、知らない二人の領域だから、踏み込むことはできない。踏み込んでいい立場でもない。

だとするといま私にできるのは、ひたすらに蓮様の味方であることだけだ。おこがましいかもしれないけれど、私だけは、味方でありたかった。