謝っても遅い、意味がないと通告されたのだろうか。
至って真剣に発言したのに、目の前から、そして背後からも耐えかねたような笑い声が上がる。

びっくりして瞬きを繰り返していると、椿様がお腹を抱えてしゃがみ込んだ。


「違っ、違う違う……はーっ、待って、ごめん。笑っちゃった」

「え、えっ、あの」


ちらりと後ろを窺えば、蓮様が口元に手の甲を当てて俯いている。肩が小刻みに震えていた。

椿様は顔の筋肉を引き締めると、再度「ごめん」と告げる。


「君の大事な人を貶めるようなことを言ってしまった。ごめん。反省してます」


ぺこりと頭を下げた彼に、慌てて首を振った。それだけでは足りず、早口で言い募ってしまう。


「わ、私のことはいいんです! 手を上げてしまったのが悪いのであって……椿様が私に謝られることは何一つありませんので!」


軽く頷いた椿様が、視線を上げる。険しい表情になった彼は、そのままの姿勢で言った。


「百合ちゃんには悪いけど、俺は蓮には謝らないよ。中途半端でいるのが気に食わないからね。……蓮だって、分かってるだろ」