鬱陶しそうに眉根を寄せるくらいには、気持ちにゆとりができたようだ。
今の蓮様は、いつも通り涼しい顔をしている。でも、さっき見た彼の横顔はどうにも傷ついているようにしか、私の目には映らなかった。


「はー……絶対明日、椿と気まずいじゃん。どうしてくれるの」

「えっ、え、申し訳ございません……あの、今から戻って土下座、」


いや、土下座で済むのだろうか。でも差し出せるものは何もない。
もごもごと口ごもると、蓮様は突然噴き出した。それはもう、盛大に。


「うそ。君があの時来なかったら、今頃地獄だった」


きらきら、目の前が光って見える。それくらいの破壊力で――百パーセントの笑顔で、彼が言う。眉尻をほんの少し下げて、隠していた弱さをこっそり教えるように。


「佐藤。ありがと」


なんで。おかしい。百合、と呼ばれるよりも、今の方がずっとずっと、浮かれてしまっている。
レイちゃんでも何でもない、ただそこにいるのは綺麗なオトコノコ。彼が紡げば、どんな名前だって特別な響きを持って心に飛び込んでくる。


「そ、そんな……もったいないお言葉です……」