草下さんが目を見開いたのが視界の端に映った。
しゃき、と軽快な音を立てたはさみの刃が、私の髪を切り落としていく。大体の毛束を顎下まで短く切断し終え、ふるふると頭を振った。
「あ、ごみはきちんと自分で処理します! お待たせしました」
数秒前まで自身と繋がっていた、黒い髪。それが零れないように袋の口をしっかり縛り、私は振り返る。
と、草下さんはさておき、木堀さんも、なんと竹倉さんも――唖然とした様子でただ私を傍観していた。
「ど、どうして切っちゃったんですか!? あんなに綺麗な髪だったのに……」
慌ててせっつくように口を開いたのは、木堀さんだ。自分が切ったわけでもないのに、酷く動揺している。
「いま竹倉さんと草下さんのを見て、髪邪魔だなあと思ったので」
「そんなことで……!?」
別に特別長髪が好きというわけではないし、惰性で伸ばしていただけだ。これから執事として勤めることになれば、いずれにせよ邪魔に感じるだろうし。
「そうですね……しいて言えば、」
今までの自分と、さよならしたかったのかもしれない。
「いえ、何でもないです。すみません。竹倉さん、よろしくお願いします」
「……分かりました」



