刹那、竹倉さんが草下さんの顔めがけて片足を振り上げる。空中でぴたりと静止したそれに、背筋が凍った。
「私相手に気を遣っていただいたようで、ありがとうございます」
平坦に述べるや否や竹倉さんは足を下ろし、スーツの乱れを整えた。
「佐藤様。交代です」
「……は、はい」
ちらりと草下さんの表情を窺うと、彼はすっかり青ざめていた。
数分は再起不能だなあ、あれ。そんなことを思いながら、私は「すみません」と手を挙げる。
「はさみとゴミ袋を貸していただいてもよろしいですか?」
私の申し出に、竹倉さんは今日初めてその眉間に皺を寄せた。
「アイテムの使用は不可ですが」
「あ、いえ! そうではなくて、少しだけ準備をしたいんです」
ますます怪訝な顔をした竹倉さんだったけれど、木堀さんに指示を出したところを見ると、了承はしてくれたようだ。
「佐藤様、お待たせ致しました!」
ぱたぱたと木堀さんが駆けてくる。
ありがとうございます、と彼女からそれぞれを受け取って、私は結っていた髪を下ろした。
「すみません、すぐに済みますので!」
一応全体に向けてそう声掛けをしてから、自身の髪を一束掬う。
「え――」



