魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



彼は呆けたように呟くと、私をまじまじと見つめながらすれ違っていく。
思わず、といった様子で零れた言葉だったのかもしれないけれど、執事らしからぬ口調だ。

しかし彼も彼で凄かった。私よりも全然手早いし、かといって食器類の扱いが粗雑なわけではない。
まさにそつなく、といった感じで課題をクリアした彼に、舌を巻いた。


「それでは次の課題に移りましょう。会場を移動しますので、こちらへ」


竹倉さんに従って中から外へ出る。辿り着いたのは、正面玄関とは反対側にあるコートだった。一面芝生で緑が目に優しい。


「ここでは少々体を動かしましょう。私が暴漢役として動きますので、お二人にはその対処をお願い致します。主人役は先程同様、木堀が務めます」


今度の先攻は草下さんだ。

私から見て右手に竹倉さん、左手に木堀さんと草下さん。
では、と短く開始の合図を出した竹倉さんが歩き出す。草下さんは木堀さんの前に回ると、剣呑な目つきで前を見据えた。

先に拳を突き出したのは竹倉さんで、その容赦ない洗練されたスピード攻撃に緊張が走る。
草下さんはそれを躱し、相手の空いた腹部に一発――入れようとしたところを、止められてしまった。

躱しては振りかぶり、避けては攻撃する。まさに一進一退だ。
竹倉さんは恐らく手加減しているのだろう。そうはいっても、草下さんだって攻撃に戸惑いというか、遠慮が見られる。本物の暴漢相手ではないからだろうか。


「……埒が明きませんね」