今あなたに傷ができたら、私が悪者じゃない。
冗談めかしてそう言えば、彼女が目を見開いた。


「でも、私……あなたに怪我させて……」

「それは半分自分のせいだし、いま謝ってくれたからもういいよ。全部なしにしよう。それでいい? 三園(みその)さん」


下の名前は呼ぶ気になれなかったし、そこまで仲は良くないと思った。せめてもの和解の証に彼女の名前を呼べば、何度も頷いた黒髪からふわりといい匂いがする。

何の匂いだろう、と場違いにも気になってしまうし、綺麗な髪質だな、ヘアケアはどうしているんだろう、とまじまじ観察してしまった。
それが奇怪に映ったのか、三園さんは私を見上げて小首を傾げる。


「あ、ごめん。三園さんの髪、綺麗だなって思ったの。あと、」


彼女の下あごをそっと持ち上げ、視線でなぞるように顔を眺めた。


「肌もすっごい綺麗。唇もつやつや」

「――へ、あ、」

「ね、スキンケアって普段どうしてる? どこの化粧水使ってるの?」


三園さんの頬がみるみるうちに赤く染まっていく。周囲の空気が何となくざわついている気がして、彼女から目を逸らした。


「百合、あんたって子は罪ねえ……」


楓が呆れたようにぼやいたけれど、三園さんが茹でだこのようになってしまって、それどころではなかった。