彼女とは先日中庭で言い争った仲だ。きっと楓と話がしたいのだろう。
席を立った私に、彼女が声を張り上げた。


「花城さん!」


存外大きな声量に、びくりと肩が跳ねる。
まさか自分の名前が呼ばれるとは思わなかった。恐る恐る視線を移せば、ばつの悪そうな顔をした彼女と目が合う。


「お、お待ちになって……下さる、かしら」

「はあ」


珍しい。私に話があるということだ。
ここじゃあクラスメイトからも、もちろん楓からも見られてしまう。わざわざ大勢の前で私に口論をしかけるつもりだろうか。

数秒沈黙が訪れ、居心地の悪さにたじろぐ。目の前の彼女は意を決したように口を開き、そして。


「この間は、ごめんなさい」

「えっ?」

「あなたに、怪我を負わせてしまって。あの時あなたが転んで、初めて自分が怖くなった」


紡がれた言葉からは、私への悪意は読み取れない。となると、彼女は本当に反省しているということだ。

目一杯握られている彼女の拳を見つけ、その上から軽く自分の手を重ねる。


「そんなに強く握ったら、痛いよ」

「花城さ、」

「あの時みたいにこそこそ裏でやればいいのに、みんなの前で謝りにくるんだからさ……卑怯なのか正直なのか、よく分かんないよ」