聞き馴染みのない単語を復唱すれば、楓は大きく頷く。


「強火の如く、その人をめちゃめちゃ推してるってこと! まあいつも甲斐甲斐しく出待ちやら手作り弁当やら、尽くしまくりだもんねえ」

「いや、だって執事だから……」


あくまで仕事だ。他意はない。
歯切れ悪く否定した私に、楓は口を尖らせる。


「じゃあ百合は、執事だから仕方なーく蓮様のお世話をしてるってことね?」

「ちょ、言い方! そういうわけじゃないよ、ちゃんと尽くしたいって思ってるからね」

「でしょでしょ。だから、やっぱり強火担なんだよ」


なぜか勝手に納得し始めた楓に、そういうものなのか、とひとまず引き下がった。

でも確かに、蓮様を推しだと思った方が、精神の安定を図れそうではある。仕事をきちんとこなさなければならないのに、いちいちドギマギしていてはきりがない。推しだから、会ったり話したりしてハイになるのは当たり前。そう割り切れば、高揚感も適切に扱える気がした。


「ごきげんよう」


突如聞こえた挨拶に、楓と二人で顔を上げる。会話を遮ったのは、いつかと同じ声だった。
艶やかな黒髪を揺らした彼女は、なぜか気まずそうに口ごもる。


「私、お手洗い行ってくるね」