魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



彼女が椅子に手を掛けようとしたところで、私はそれを制した。代わりに両手で椅子を静かに引き、「どうぞ」と促す。


「あ、ありがとうございます……」


おどおどと会釈をした彼女は、きっとこういった扱いに慣れていないのだと思う。遠慮がちな感謝に笑顔で返すと、白い頬がほんのりと桃色に染まった。

最初はワイン。手早く栓を抜いて、ボトルの底を支えるように右手で持ちながらグラスへ注ぐ。
それが終われば料理だ。お皿は指をまっすぐ伸ばし、付け根で挟むように。

前菜、スープ、サラダ、魚料理と続いて、お口直しのソルベ。そしてメインディッシュの肉料理、最後にデザート。食後のコーヒーを淹れて終了だ。

とはいえ全て木堀さんが胃に収める――わけではなく、食べたという体で進む。


「――いいでしょう。では次に、草下(くさか)様お願い致します」


無事に自分のターンを終え、ほっと胸を撫で下ろす。
最初にいた場所へ戻ろうと歩き始めた時、やけに視線を感じて顔を上げた。

ばちりと目が合ったのは、草下、と呼ばれた彼だ。


「……すげえ」