私が声を張ると、小さな体がびくりと跳ねた。その不安げな表情を拭いたくて、更に続ける。
「とっても素敵な場所ですね! 教えて下さってありがとうございます!」
瞬間、葵様が真ん丸な目を見開いた。草下さんと繋いでいた手を離して、こちらに駆け寄ってくる。
私も立ち上がり、受け止めにいこうとした時だった。
「わ、」
足元の何かにつまずいたのか、つん、と葵様がよろける。その体が倒れそうになったところへ、咄嗟に腕を伸ばした。
重みを両腕に受けとめたと同時、踏ん張りがきかずに足がもつれてしまう。傾いた先は右側で、まずい、と刹那に思った。
まずい。そっちは川なのに――
ばしゃん、とやけに大きな水音がその場に鳴り響いた。何だかデジャヴだ、と悠長に考えている場合ではなく、抱え込んだ小さな頭を気に掛ける。
「葵様、大丈――」
「兄さま!」
叫び声を至近距離で聞いてしまい、耳が痛かった。
葵様の向いている方向を自らの目で確かめ、息を呑む。
「蓮、様……!?」
私の背中を支えようとしたのだろうか。川の中で盛大に尻餅をついている彼に、血の気が引いた。
「蓮様、大丈夫ですか!? お怪我は!?」



