魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



苦しそうに吐き出して、彼の瞳がつと私を捉えた。
笑いを堪えたその表情は、端正な顔立ちが少しだけ歪んでいる。でもそれは、随分と美しく、親し気な歪みだった。


「い、犬でも、いいです……」


座っているのに、腰から力が抜ける。
とても直視できそうにない。蓮様の笑顔はそれくらい凄まじい破壊力をもって、私の胸中に飛び込んできた。


「ふーん、いいんだ?」

「いい、です」


ほんの少し、意地悪な声。揶揄うような、楽しむような。
主人にだけ許される特権を振りかざすみたいに、彼は告げる。


「じゃあ、わんって言って」

「えっ!? わ、わん!?」

「ほんとに言うんだ」

「あ、いや今のは違います、聞いただけです!」


焦って否定すると、蓮様は頬を緩めた。
顔が熱い。ばくばくと心臓が内側でフル稼働して、呼吸が浅くなって仕方ない。

気持ちを落ち着けようと、空を見上げて星の数を数え始める。十二個まで数えたところで、足音がして視線を下げた。


「あ、」


階段を下りきった、葵様と草下さん。
きまり悪そうにこちらを見た葵様に、手を挙げて笑いかける。


「葵様!」