魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



ああ、とか、はい、とか。曖昧な音が自分の口から漏れる。
だって、それより何より、彼から目を離せなかった。ありがとう――蓮様にお礼を言われたことが、信じられなくて。


「今回は僕じゃなくて、草下の役だったみたい。君、それが分かったから出て行ったんでしょ、さっき」


あの一瞬で、そんなたいそうな気付きをした覚えはなかった。ただ、私はあの場にそぐわないなと肌で感じただけだ。結果的に草下さんじゃなきゃいけないと、確かに思ったけれど。

珍しく、蓮様が一方的に話している。
何か気の利いた返事をしなければ失礼だ、と頭では思うのに、口は一向に動かなかった。


「誕生日おめでとう」


柔らかな夜風が頬を撫でる。その慎重さにふさわしい雰囲気をもって、彼の口からその言葉が贈られた。

私は今、きちんと喜べているだろうか。
ありがとうもおめでとうも一気に貰ってしまって、この後とんでもなく悪いことが起きるのではないか、と不安にすらなってしまう。


「使用人全員で集まってたの、見てたらしいよ。草下がとられたみたいで、いじけてただけ。でも君の誕生日だから仕方ないっていうのも分かってたんだろうね」

「え、」