蓮様の横顔は、もう「兄」だった。
ゆっくりと顔を上げた葵様が、僅かに唇を開く。しかし私を視界に入れると、再び俯いてしまった。
――私がいたら話しにくいことなんだ。
その場で浅く頭を下げ、外に出る。なるべく音を立てないように静かに階段を下りてから、草原の中をひた走った。
「草下さん!」
正しい道で戻れていたのかも分からない。
別荘の前にいた草下さんを捕まえて、私は必死に言い募る。
「葵様、いました。森の中、奥に、小屋があって、そこに……」
酸素を取り込みたいけれど、早く伝えなければならない。ひゅうひゅうと喉が悲鳴を上げる。
「本当か!? …………ああ、良かった……」
安堵して力が抜けたのか、草下さんがしゃがみ込んだ。
しかし、律義に付き合っている暇はない。彼の肩を叩き、「行きましょう」と急かす。きっと、葵様は草下さんに迎えに来て欲しいのだ。
脈拍が速いからか、秘密基地までの道のりは最初に通った時よりも短く感じた。
「ここです。この奥にツリーハウスがあって、」
「今更だけど、誰にも言わずに来て良かったのか? 森田さんも、多分まだ外探して……」
「草下さん」



