竹倉さんや森田さんも知らないような、トップシークレット。
蓮様は静かに頷いて、「草下にも伝えて」と付け足す。
「『大人』には言いたくないけど、君と草下は違うから」
大人。その括りは、単なる分類上の単語ではないのだろう。
蓮様も葵様も、自分たちだけの安息の地を得ることで、心を守ってきたのかもしれない。
ふと見た彼の横顔は、少年だった。
蓮様は黙って階段を上り始め、それについていっていいのか逡巡した挙句、さっきの発言の真意を捉え直して、結局私も階段に足を掛けた。
「葵」
一切の躊躇がない声。でも、普段の呼びかけより格段に優しくて、そこに兄弟の絆を垣間見た気がした。
蓮様がその名前を呼んだということは、葵様がいたということだ。急いで階段を上りきり、蓮様の横に並ぶ。
ずっと暗い中にいたからか、目が慣れてきた。小屋の中は明かりも何もなく、だからといって懐中電灯を無遠慮に灯す気にもなれない。
ただ夜の穏やかな闇の中で、三人の息遣いだけが響いていた。
「今日は、星が綺麗だよ」
窓際で座り込んだまま自身の膝に顔を埋める葵様に、蓮様が歩み寄る。彼はその隣に腰を下ろして、ぼんやりと夜の空気を享受していた。
「まだ帰りたくないの?」



