私が入ってきたのとは別の、前方の扉から現れた先程の男性。
細い黒の眼鏡フレームを指で押し上げ、彼は朗々と話し出した。
「本日はご足労いただき、誠にありがとうございます。私、五宮家の執事長を務める竹倉と申します。早速ですが、お二人にはオーディションと銘打ちまして、実技課題をこなしていただきます」
彼の説明によると、礼儀作法、調度品・貴重品の扱い方、そして護身術等々、様々な課題が用意されているらしい。
一通り内容を辿ったところで、竹倉さんが視線を上げる。
「と言いましても、今回の応募者はお二方だけですので、あまり難しくお考えにならなくても結構かと。場合によってはどちらも採用させていただきます」
一息ついた彼は、「では始めましょう」と表情を硬くした。
まず最初の課題は、食事の給仕。実際に料理の盛られた器を運び、テーブルへ。こうしたお屋敷では、お皿一枚とっても高価だ。マナーと同時に食器類の扱い方も見られる。
「主人の役は使用人が務めます。――木堀」



