意外な回答に、面食らってしまった。
前半はなるほどそうか、と納得できるとして、後半は疑問だ。草下さんの方が優秀に決まっている。

釈然としない面持ちでいたのが伝わったのか、草下さんは私を見て更に付け足す。


「蓮様が声張り上げて怒るとこなんて見たことなかったし、馬鹿正直に本人に好きなもの聞きに行くのも、俺じゃできなかったと思う。あ、これ嫌味じゃないからな」

「嫌味にしか聞こえないです……」


はは、と再び肩を揺らした彼が、「それでいいんじゃないか」と窘めた。


「俺は――というか執事は、主人のことを観察して、そこから好みや癖を割り出すのが常なんだよ。そうするのが当たり前だと思ってやってたから」


彼の言葉に、ぐ、と息が詰まる。

執事とは、気遣いのプロフェッショナルだ。与えられた仕事をこなすのではなく、先回りし、自ら尽くし、サービスをプラスすること。それが求められる立場である。


「でも当たり前が通用しないんなら、意味ないしな。多分、俺があのままやってても、蓮様は心開いてくれなかったと思う」

「そう、でしょうか……」


弱気に返事をすると、そうだよ、と草下さんは私の背中を叩く。


「佐藤って、いい意味で執事らしくなくていいと思う」

「それ、全然良くなくないですか!?」

「あはは」


早くしないと竹倉さんに怒られるぞ。
そう言って、草下さんは今度こそ別荘へ向かって歩き出した。