端的に了承した彼は、近くにいた若い女性を呼び寄せた。彼女も使用人だろうか。
「いま女性用のスーツを手配しますので、そちらに着替えてお待ちいただけますか」
「は、はい、分かりました。ありがとうございます」
淡いピンクのブラウスに、白いスカート。自身の服装を見直してから、お礼を述べる。
執事ということは、やっぱりこれから先、スーツがデフォルトになるのかもしれない。
親切にも広い一室に案内してもらい、そこでワイシャツに袖を通す。
「……よし!」
決めたからには全力で。とにかく頑張ろう。
鏡の前で長い髪を束ねながら、一人意気込んだ。
着替え終わったら直接オーディション会場へ、とのことだったので、はやる気持ちを抑えながら歩き出す。履き慣れない革靴が、緊張感を助長した。
「すみません、お待たせしました!」
扉を開けて、第一声。
そこにいたのは、一人の見知らぬ青年だった。
「……女?」
勢い良く入り込んできた私を見るなり、彼はぽつりと零す。その声には侮蔑などではなく、純粋な驚きの色が含まれていた。
だだっ広い空間の中、私と彼の二人。気まずさに尻込みしている時だった。
「お待たせ致しました」



