「夏希。書類の荷物なら俺が持つ。
もうお前だけの身体ではないのだから」

「荷物と言っても薄いファイルのこれだけですよ?」

 移動のため廊下を歩いていると社長が私の身体を心配してきた。
荷物と言っても片手で持てる程度のファイルだし

「ダメだ、ダメだ。安定期に入るまで何が負担になるか分からない」

そう言うとひょいと持ってくれた。大袈裟な……。
 どうやら社長は、我が道を行くマイペースの他に
最近では今まで以上の溺愛ぶりをプラスされてしまった。
 とにかく心配性で私に大人しくしろとうるさい。

 本来ならよく気が利く旦那様だと褒めてあげたい所だ。
だが我が旦那様は、普通ではない。

「いいか?お前には、普段から精神的に
負担になるような事ばかりさせてきた。
 今は、お腹の中に子供がいる。
俺が責任をとらないとならないし、もう少し待っててくれ。
 何とかしてお前の望み通りの生活を送らせてやるから」

社長……噂の元凶をさらに広げないで下さい!!
 社長が何かを口に出したり行動をするたび
私への疑いが酷くなっていった。

 頼むからあなたが大人しくしていて下さい!!
チラッと周りを見ると社内から痛い視線を浴びた。
 コソコソと陰口を言われて睨んでくる女子社員も多い。
何とも居ずらい空気だろうか……。

 お腹をソッと触れてみた。
まだ3ヶ月目なのでお腹は、出ていない。
 こんな状況で上手く子育てが出来るのかしら?
何だか不安になって最近、頭痛がするようになった。

 この事をその夜。
久しぶりに女子会で親友の恵美と香奈子に相談してみた。
 ちなみに私は、妊娠中のためアルコールは、一切飲まずジュースにした。
 すると出産経験のある恵美がこんなことを言ってきた。

「夏希。あなたマタニティーブルーじゃない?」

「マタニティーブルー?」

「妊婦に多い症状よ!出産などで
ホルモンバランスが崩れて不安定な気持ちになるの。
 夏希の場合…環境が最初から特殊だから」