「えっと……ここが、お手洗いで、あっちが教室棟、この先が特別棟、あっ、学食は一階にあるよ!まぁ、最所はこんぐらいかな?」

楽しく話ながらも少し学校の案内をする。この学校歴史もあるし異様に広いんだよなぁ……。

「覚えられる?……私ですらまだ入ったことない教室もあるからねぇ。転校生には、まだキツいよね」

あはは、とさっきからある一転を見つめていた透くんに話しかける。沈黙って苦手かもな。

「なぁ、この先って何があるの?」

「えっと……この階段は屋上へ繋がってるの。屋上は出入り自由で、晴れた日にそこでお昼とか最高なんだ。日当たり良好だしね」

自分の好きな場所に興味を持ってくれたからか、少し早口になってしまう。あっ、そういえばっ!

「……ふぅん。そっか、屋上か……だからか?」

また独り言だ。いや、会って数分だから話しかけるのは恥ずかしいのかな?って、違う違う今はそれどころじゃない。

「透くん。少し時間もらってもいい?おねがいっ!」
このとおり、と手を合わせる。早くいかないと、大変だ!

「えっ?いいけど、早く教室行った方がいいんじゃ?」

「そうだね!ちょっと様子見るだけだから!」

「様子?」

そう言うと私は、屋上への階段を上っていった。その後に透くんもついてくる。何だろう、子供みたい……。

最上階に着きギィッと古めかしい屋上の扉を開ける。すると……


「みゃあ……みゃあ……」

聞こえてきた声は、子猫より幾分か低い大人の猫の声。可愛いくおねだりしてるようなそんな甘えた声。

「風(ふう)ちゃん!ごめんね遅くなって……」

「風ちゃん??えっ、猫??何でここに?」

疑問を浮かべるもの仕方がない。猫なんて普通は高校にいないよね。うちは特別なんだ。

その猫は、三毛の雄で何年か前に学校の先輩が拾ってきたのだ、その時はまだ子猫で先生に隠しながら育てていたが、成長するにつれて隠すのが難しくなった。
が、いつの間にか先生にも可愛がられている事が発覚し色々とあって学校で飼うことが……って、まぁ、その話は置いといて。

「この子は、風太郎(ふうたろう)くんって言ってね、学校全体でお世話してるんだ、今月はうちのクラスが当番なの。ほら、ご飯ですよ……ごめんね遅れて。」

「みゃあ‼にゃあ!」

しゃがみこみ、お皿にご飯を入れるともの凄い勢いで食べ始める。ほんとにお腹すかせてたんだな……。ごめんね。

「へぇ、風太郎ねぇ、よろしく…イテッ」

「えっ?!だ、大丈夫?!透くん!?」

撫でようとした瞬間、何が気に入らなかったのか、風ちゃんがおもいっきり噛みつく。見るとそこには血が出ていた。急いで止血しないと!!

「あぁ、大丈夫だ。こんぐらいのかすり傷、舐めときゃなおるよ」

そんなこと言う透くんは、何事もなさそうにしているが手をみてみると

「でもっ!血がいっぱい出てる!!」

「あっ…えっ…マジか。嘘だろ…」

確か、ポケットに絆創膏が入ってるはず…。

「えっと、ほら手出して?絆創膏……の前に少し、血を拭いて………はい、できた!」

「あっ……と、ありがとう…でも可愛すぎないか?それに、手……」

「あっ!!その!ごめんなさい!」

パッと手を離す。うわぁ、何か大胆に握ってしまった…。しかも、会って数分の子だよ?うわぁ……

そんな雰囲気に気づいたのか勢いよく飛びかかってくる風ちゃんを受け止める。

「うわっ!風ちゃん?どうしたの!?…というか、本当にお爺ちゃんなのかなぁ…元気よすぎでしょ」

ふふふ、と笑う。ちょっと気まずい雰囲気壊せたかな?

「というか、大丈夫か?早く教室いかないと……俺、一応転校生何だけと……」

「はっ!そうだ!ってこんな時間?!ヤバイ怒られる!透くん!走って!」

風ちゃんが腕の中から飛び降りる。私は急いで階段の方へ走る、ヤバイ、ヤバイ。絶対恵ちゃん先生に怒られる!

「おいっ!待てよ!…………なぁ、お前はこっち側の〈もの〉だろ?何時までも、ここに……「透くん!」おっと」

透くんが、立ち止まって風ちゃんを見てなにか言う。この場所だと何を言っているか聞こえない。てか、早くして!

「透くん!早く早く!」

「おぉ!待って、今いく!だからまっ」

ばたばたと私達は、急いで階段を降りる。









そんな二人の後ろ姿を、猫は仁王立ちしながら見送る。その猫の尻尾は、二股で。
ふっと、猫が口を開く。それは何時もの鳴き声ではなくハッキリとした〈人の言葉〉。

「おぉ、怖い。まさかあんな童にバレるとはのぅ……老人にいや、老猫か…優しくせんといけんぞ。凛と……透。おぉ怖い怖い。」

猫は、リンッと首輪の鈴をならし、屋上から消えていった……。