泣きたい夜には…

『でも…』

ひとみは言葉に詰まり、俯いてしまった。

「ひとみ…お前さ、お前がアメリカに行くことになったら、俺と別れなきゃいけないと思っているんだろ?」

俯いたままのひとみは、黙って小さく頷いた。

「俺はお前と別れるつもりはないぞ!

別れるんじゃなくて、ほんのしばらく離れるだけだよ。だって、一生行ってるわけじゃないだろ?」


俺の言葉に、ひとみはハッとした様子で上げた顔は、驚きばかりでなく、必死に涙をこらえているように見えた。

『2年も…2年も行かなきゃいけないんだよ!』

ひとみは必死に声を絞り出して言った。

「わかってる…ひとみさ、日本人の平均寿命って今、どのくらいかわかるか?」

ひとみは何を言ってるの?と言いたげな顔をして、

『80歳…』

小さな声で答えた。

「80歳…80年だよな。人生80年のうちの2年なんて短いもんだよ!」

『でも…2年も慎吾と離れたくな…』

「バカヤロー!

行かなかったらお前、一生後悔するぞ!

俺達の人生の時間はまだ十分残されている…お前がアメリカに行く2年間で俺はもっとお前にふさわしい男になってみせる。

だからお前もアメリカで2年間、しっかり勉強して、今よりもっとすごい医者になるんだよ!」