泣きたい夜には…

『ひと…いや、浅倉先生、ありがとうございました。』

向井先生は、ひとみの手を取ると、大粒の涙を零した。

『やだ、先生ったら、赤ちゃんはしばらくNICUで管理することになりますから、抱っこは当分お預けですよ。早く奥さんを労ってあげてください。』

向井先生はひとみに一礼すると、急いで分娩室に入って行った。

ひとみはもう一度大きな伸びをすると、

『慎吾、一緒に帰ろう?私疲れちゃったから車置いていく…駐車場で待っててくれる?』

そう言うと、駆け足で着替えに行った。

そんなひとみの後ろ姿を見送っていると、保育器に入った小さな赤ちゃんが分娩室から看護師2名に伴われ出てきた。

保育器の中の赤ちゃんは、目を閉じたまま、小さな手足をゆっくりと動かしていた。

赤ちゃんは、小さいながらも必死に生きようとしている…

俺にはそう思えた。

『浅倉先生って、まだ3年目でしょ?あの処置の仕方、ベテランのドクター並みの腕前で驚いたわ。』


『ホントよね。浅倉先生じゃなかったら向井先生の赤ちゃん、助からなかったかも…』