先生は俺の質問に苦笑すると、

『かなりキツいこと聞くんだな。』

そう言うと、天井を見上げた。

『ひとみのことは今でも好きだ…天真爛漫で可愛くて、医師としての素質は十分だし…

だから私は彼女と離れた。恐らく彼女は私と結婚したら、医師を辞めていただろうからね。』

先生は何もかもわかっていたんだ。

だからこそ、わざと傷つけるようなことを言って、別れたのだろう。

「ひとみには奥さんのこと、愛していないと言ったけど、本当は…」

俺は先生の本心を知りたいと思った。

『キミはなかなか突っ込むね…』

先生は顔を赤らめ、

『始めはひとみのことが忘れられなかった。
ひとみと別れて香澄と結婚したことを後悔したこともあった。でも、香澄はすべてお見通しだった。

彼女に言われたんだ。

“あなたが他の誰かを愛していても、私はそれに負けないくらいあなたの全てを愛しているから”って…

完敗だったよ…香澄の懐の深さにやられたよ。そう思った時には俺も香澄を愛していた。

ひとみとは次元の違う愛でな…だから誤解するなよ!それに、今のひとみは俺じゃなくて、キミに夢中なのはアメリカ留学断るくらいだから明白じゃないか!』