泣きたい夜には…

何だか居たたまれなくて、この場から離れようとすると、

『成瀬さーん!』

ひとみが俺を見つけて声をかけてきた。

病院内では医者とMR、立ち止まらない訳にはいかない。

「どうしました?浅倉先生…」

無理矢理営業スマイルを作るが、うまく笑えない。

『成瀬さん、お願いしていた喘息治療薬の件なんだけど…あ、向井先生、失礼します。』

俺はひとみに引きずられて職員専用ラウンジに連れて行かれた。

「な、何だよ…。」

ひとみはコーヒーの入った紙コップを俺に渡すと、

『助かった…けど、何か誤解してない?』

平静を装ったつもりだったが、ひとみには見透かされていたようだ。

「な、何がだよ…」

ひとみはため息を吐くと、

『向井とはもう、何でもないわよ。さっきのは仕事の話…今だに指導医ヅラしてうるさいったら…』

本当にうんざりといった表情だった。

「だったら何でお前、このごろおかしいんだよ!俺がわからないとでも思っているのか?」