泣きたい夜には…

食べきれないくらいの豪華な料理をお腹いっぱいになるまで十分堪能すると、

ドォーン! ドドォーン!

外から花火の上がる音が聞こえてきた。

『始まったみたいだね!』

ひとみはベランダに飛び出して行った。

手すりにつかまって空を見上げるひとみは、さっきまで心肺蘇生をやっていた厳しい医者の表情なんて微塵もなく、子供のように目を輝かせていた。

『慎吾!早く早く!すごくきれいだよー!』

俺は冷蔵庫から缶ビールを2本出すと、ベランダに出て1本をひとみに渡した。

『サンキュ!』

ひとみは缶を開けると花火を見ながら飲み始めた。

俺とひとみは言葉を交わすことも忘れるくらい、夏の夜空に咲き誇る、いくつもの色鮮やかな大輪の花に見入っていた。

『来て良かった…』

ひとみがポツリと呟いた。

「俺もひとみと一緒に来られて良かった。」

『ハプニングはあったけど、豪華料理食べられたし…ね。』

俺とひとみは顔を見合わせて笑った。