『えっ!?』

ひとみは驚いて俺を見た。

『まだ、明るいよ…』

戸惑う表情のひとみだったけど、

「そうだ!大浴場に行こっ!せっかくだから色々な温泉に入りたいし…」

そう言って風呂に行く支度を始めた。

あぁぁぁぁ!!!

かわされたぁぁぁ!!!

『慎吾…後でね』

ひとみは俺の心を知ってか知らずか、ニヤッと笑うと、頬にキスをして大浴場に行った。

部屋にひとり残された俺…

何を焦っているのだろう…

確かに夜はこれからだけど、これではいつも忙しいひとみが、ゆったり休暇を過ごすことなんてできないじゃないか…

焦るな俺…

落ち着け俺…

「俺も行って来るかな…」

俺も支度をし、大浴場へと向かった。

エレベーターでフロント階まで下りて来ると、何やら人垣ができていた。

何だろう…?

何の気なしに覗いて見ると、

ひとりの老紳士が倒れていた。

旅館の従業員は救急車を呼ぶために119番に電話をかけているようだが老紳士への対処にまでは手が回らないようだ。

俺は仲居に大浴場にいるひとみに急病人が出たということを伝えるように頼んだ。