泣きたい夜には…

突然、俺の頬に触れていた彼女の手が震え始めた。

やがてその手は、頬から肩に置かれた。

『私、本気だった…

本気であの人のこと愛していたのに…

こんなことって…悔しい…というより悲し過ぎるよ…』

彼女は俯いたまま必死に涙を堪えているように思えた。

俺は彼女の手を取ると、

「向井先生はもったいないことをしたよなぁ…

こんなに優しいお前の手を離してしまうんだから…

アイツ、いつか必ず後悔…」

後悔する…そう言いたかったのだが、

それを遮るかのように、彼女が俺の胸に飛び込んで来た。

お、おい…。

思いもかけない展開に、俺の頭は真っ白になった。

『ごめんなさい…しばらく胸貸して…』

彼女はそう言うと、俺の胸に顔を埋めて号泣した。

俺はしばらく何もできず、泣いている彼女を見ていることしかできなかった。