泣きたい夜には…

湘南に戻ることをきっかけに、俺とひとみは一緒に暮らすことになった。


新居は、


俺達の出会いの場所…


そう…

かつて俺達が住んでいたマンションだった。


『前よりひと部屋多いタイプなのに、よく空き部屋があったよね。』

荷物の整理をしながら、ひとみが嬉しそうな笑顔を見せた。

引っ越しが一段落し、ホッと一息吐くと、

突然ひとみが正座をして、

『慎吾…さん』

初めてさん付けで呼ばれる照れくささも手伝って、

「はい…」

俺もつられて、ひとみと向かい合うように正座をした。

『ふつつか者ですが、精一杯努力致します。どうかよろしくお願いします。』

三つ指をついて神妙な面持ちで挨拶をするひとみが健気で初々しくて、何だか優しい気持ちになった。

俺はひとみの両手を取ると、


「ひとみは無理に頑張ることはないよ。

そのままのひとみで俺は満足だから。」

俺の言葉にひとみは潤んだ瞳で笑顔を見せた。