泣きたい夜には…

ようやく病院の建物が見えて来た。

車を駐車場に止めると、病院を見上げた。

院長の所は確か一人娘だと聞いた。

彼女と結婚すれば、この病院は俺のものになる…

でも…

俺にはもっと大切なものが…

手に入れたいものがある…

この話を断ったら10人中10人は『もったいない!』とか『お前はアホか!』と言うだろう。

それでもいい…

俺は院長室へ足を進めた。


院長室の前まで来ると、もう一度、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。

コンコン!

ドアをノックすると、

『どうぞ。』

中から院長の声が聞こえた。

ドアを開け、

「失礼します。」

一礼をし、入ろうとすると、

カッカッカッカッ…

背後からヒールの音が聞こえて来た。

しかもものすごい勢いでこちらに近づいて来る。

そんなことより、院長に返事をして、早くひとみの所に行きたい。