自然と圭一の服に手が伸びる。
それに反応して圭一が困ったような顔を向ける。
その表情を見て確信した。

服を掴んだ反対の手を太ったと思ってたお腹に手をあてる。

「自分で気付くまでって思ってたのに」

ごっちゃんを一睨みして、また困ったような顔をした圭一に涙が出そうになった。

「調べてないからはっきり言えない、ってか、多分じゃなくて、そうなんだろうけど」

そう言って言いづらそうに頭をかいて、俯きながら「俺は嬉しいよ」と呟いた。

「でも今は互いに忙しいし、やっと仕事にも慣れてきた頃って時にコレだから、…それは俺が悪い。でも授かったってことは間違いなく望んで来たってことだと思うし」

そこで一旦止めて、気持ちを落ち着かせるように大きく深呼吸をした。

「同棲ってだけで籍入れてないから順番間違ってるし、真もしたいこといっぱいあると思う。だからそれを我慢させることになるけど、俺は、産んでほしいよ」

最後の言葉に涙が止まらんくなって次々にポロポロ落ちる。

デキ婚で世間体がどうのこうのはどうでもいい。
ただ、圭一があたしとの間に出来た子供を産んでほしいって言うてくれたことが嬉しかった。

圭一は笑って、泣きつづけるあたしの頭を撫でる。
マスターもアヤちゃんも見てたけど、そんなん今気にしてられんくて、嬉しくて止まらんかった。

自分の事よりもあたしの事を一番に考えてくれる圭一の優しさが嬉しかった。

それでもやっぱり嬉しいと同じくらい不安な気持ちもあって、今のあたしに子供を産む資格があるのか、こんな不安定な精神状態のまま、お腹の赤ちゃんを育てていけんのか、産まれてからちゃんと育てていけんのか不安しか生まれてけぇへん。

圭一が傍にいてくれて、産んでほしいって言うてくれて、これ以上必要なもんは何もないのに自分自身の不安はどうにも取り除かれへん。
今まで上手くいってたからって、あたし達がこのまま一生隣で生きていく保証もない。
そんな見えん未来への不安を抱えて、ほんまに子供を産めるんか不安になる。

「これから“一生”あたしと一緒やけど」
「“一生”を強調するか」

圭一は笑う。

「このあたしと“一生一緒”やで?」
「6年も一緒にいりゃ、一生も変わんないでしょ」
「変わるわ!!」

軽すぎる返事にテーブルを叩くとマスターも一緒になって宥めてくる。

あたしは真剣な話をしてるのに圭一は軽すぎる。
楽観的にも程がある。

「6年一緒におったからって、実際は2年しか付き合ってないし、今は同棲やけど結婚ってなったら変わってくるやん。それに、」
「変わらないから」

あたしが言い終わるのを待たずに遮る圭一の瞳は真剣で、あたしが言うこと全てを否定する瞳。
喧嘩の時でもそう。
こういう瞳をしたら何を言うても負ける。

「何も変わんないから。それとも、真は嬉しくないの?一生俺とは一緒にいられない?」
「そんなことない!!ちゃんと嬉しいもん!産んでほしいって言われて、嬉しかったもんっ」

ずっと傍にいてほしいのは圭一だけやもん、そう言うと同時に抱きしめられる。

「じゃあ、こないだの返事は?」
「絶対に幸せにしてくれるなら」