「ルームシェアを始めたあとやったから付き合う時は私らの仲も悪かったし、それでもええって言うてくれたんやけど、最近電気代や水道代や特に食費の節約で私ら一緒に行動すること増えたやん?それで私らの仲を疑い始めてさ。何言うても信じてくれんくなって。んで、今日フラれた」

笑って話す真は少し震えて、開き直っているように見せていた。
そんなことしたってバレるに決まってるのに。

「それなら俺がちゃんと言えば納得するんじゃねえの?話しに行こ」
「いや、もぉええねん。今のままじゃ納得せんと思うし。不安に思てたことが現実になっただけ。もう、ええねん」

仕方ないじゃないだろ、って言おうとしたけど、真の拳が震えるくらい強く握っているのが見えて言えなくなった。

俺が言わなくても真が一番わかってるんだ。こうなることを承知で相手を好きでいたんだ。
誤解を解く術もなく、愛しい人と別れる気持ちってどんな痛みなんだろう、と思った。きっと今の俺には、想像出来ないし、感じることも出来ない。

「よし!今から買い出し行って、お前の失恋祝いしてやるよ。今日は特別、俺の手作りディナーだ!」

真の肩を組んで思いっきり笑顔で笑ってやる。でも、慰めの言葉はあえてかけない。
真が決めたことに口出しするつもりはないし、今回のことは俺にだって責任はある。そう言うと真のことだから、またガミガミ怒るだろう。なら、俺が盛り上げてやるしかない。
真は怒っているようだけど顔は笑っているから、この選択で間違っていない。

「当たり前やん!今日は豪華なディナー作ってや?!」

無理矢理でも心からじゃなくても、真が笑顔になれば安心だ。
今、真を元気づけてやれるのは俺しかいないから。

その日の夕飯は煮込みハンバーグを作った。俺にとってはすごく豪華な夕飯。しかも、俺の手作り。
こんなの作れるならなんで最初から作らへんかったんよ!と真は怒っていたけど、味も絶賛してくれてかなり嬉しかった。
こんなに褒めてもらえるなら、もったいぶらずに作ればよかった、とまで思えた。

「なんでアヤには言わなかったのに、俺に自分から話したの?」
「なにが?」
「その、理由だよ」
「私が泣いた理由?」
「そう」

そう、どうして聞いてもいない俺に自ら話そうという気になったのか。後々聞くつもりでいたけれど、真の口から聞くなんて思いもしなかった。

「ん~、なんでやろうね」

手に持っていた缶チューハイを一口飲んだ。

「え、理由ないの?」
「そうやな」

即答と表情に変化なし。

まさか、そんなバカな。
俺の勘違いか?俺の心配損なのか?慰めてもらえるなら誰でもよかったのか?それとも俺なら慰めてくれるだろう、とか思っていたのか?
なんだかどっと力が抜けて大きなため息が出た。

「でも圭一やから言えたかも。圭一やったら、なんか・・・気ぃ遣わず泣けるかもって、ちょっと思った。恥ずかしいけど圭一のおかげで早く忘れることできそう。ほんまありがとうね」

初めて言われた感謝の言葉とお酒で少し赤くなった顔。少し泣きそうな表情の真を思わず抱きしめそうになった。

女は恋をなくして綺麗になるというけれど、本当にそうだ。
俺は真の横顔が今までよりも綺麗に見える。真の横顔から目が離せない・・・これは、ヤバい。

「圭一?私、感謝してんやけど。無視してんの?」

風呂上がりで半乾きの髪からシャンプーの匂い。下からのぞき込んでくる上目遣い。

ルームシェアを始めて、初めて意識した。
真は“女”だ。

「いや、無視してないから。てか、これ以上近寄んな!」
「照れちゃって!!圭一も可愛いとこあんだね」
「うるさいよ」

いつもより少し素直な真と初めて真が“女”であることを意識した俺。
もう心臓はバクバクして、隣に座る真にまで届いてしまいそうだ。