「ただいまーって、なんで寝てんの?!準備しててってゆうたやんか!」
「……あ゙?」

あぁ、言っちゃった。
「あ゙?」って言った。
このあたしが聞き間違うわけがない。

もう知らん。
勝手にすればいい。
時間もないし、準備もしたい。
バカ男は放って部屋を出た。

隣の部屋に入って前日に買ったワンピースをクローゼットから出し、ベッドの上に広げる。
朝から広げたままのメイク道具の前に座り、溜息を吐く。

「準備しとけっつったのに」

仕事終わりで化粧崩れした顔を眺めて、その顔にまた溜息が出た。

疲労感が滲み出てる顔。
目の下にはクマが出て、異常な脱力感。
それに加えて家事と馬鹿男の相手。

・・・とにかく、疲れた。
そう全身が叫んでる。

バカ男に関しては好きで一緒におるし、シェアの頃から何も変わってない。
でも、お互い働きだすと一緒の時間は減って、自分の時間すらない。

僅かに残る時間で家のことをせなあかんくなることはわかってたつもりやけど、やっぱり甘かった。

どっちも働いてるから“出来る方がやる”ってルールにしても、やっぱり男は付き合いもあって、女のあたしよりは仕事も忙しいし帰りも遅い。
だから比較的あたしがすることが多くて、それは同棲してんねやから、しょうがないってわかってる。

それも苦じゃないし、せんくて洗濯物が溜まる方が嫌やし。
それに対して圭一は感謝の言葉をくれるし、圭一も仕事で疲れてるのに休日はしてくれるから何の不満もない。

でもやっぱり疲れることは疲れる。
ストレスになってないって言えば嘘になる。
イライラせんって言えば嘘になる。

「あかん。冷静に!イライラしない、イライラしない!」

声を出して自分に言い聞かせて、仕事用メイクからプライベート用メイクに変える。

今日は久々にみんなと会えるX'masパーティー。
社会人になったから学生の時よりは少しリッチにバーを貸し切ってる。

そのためにフォーマルドレスも新調した。
おもむろに携帯を開き、着信履歴の一番上をコールする。

《もしもし?》

後ろでは数人のスタッフが忙しなく動く音が聴こえる。
声色も少し怒ったような苛立ったようなタイミングが悪かったかな、と少し申し訳なく思った。
でもそれで引き下がるわけにはいかん。

「あのー、迎えに来てほしいなー!みたいな?」

今回の幹事は例年通り、とアヤちゃんがしてくれてるから忙しいのはわかってる。
だからもし「無理に決まってんでしょ?!」と言われた時の為に逃げ場を作った。
そうじゃないと理由を聞かれた時に自分が恥ずかしいから。

《あー、そのつもりだったから文也に迎えに行かせる。30分後ね》

忙しいから切るね、と一方的に切られてしまったけど、どうやら予想はしてたみたいで来てくれるらしい。
それはありがたい話やけど、アヤちゃんは相変わらず使われっぱなしで今も忙しいんやろう。

ここずっと2人で計画を練ってたらしいから相当な手の入れ込み様やと思う。