何を考えているのかはわからないけど、よくない空気ではある。まさか、プロポーズの言葉だと言うことに気付いていない、とかもあるかもしれない。まだ俺の戯言だと思われているなら早急に誤解を解きたい。しかし、俯かれたままではどうしようもないし、どんな表情をしているのかもわからない。

とりあえず、俺の言葉は伝えた。理解できないならもう一度伝えよう、そう思ったときだった。

「は?」

ようやく戻ってきたらしい真が発した一言。どうやら俺の言葉を脳内で反芻してしたんだろう。ただ理解はしていないらしい。
確かに雰囲気という雰囲気を作ったわけではないし、流れに乗って言った事だから突然っちゃあ、突然の事だろうけど。

「圭一、今のって」
「今のって、プロポーズ?」
「プロポーズ?!」

ここまではっきり言わないとわかんないのか、と呆れもするけど、この反応はなかなか見れないから、まぁいいだろう。
顔を真っ赤にして両手を口押さえて、パニクった表情でガンガン目を泳がしてる。それは嬉しいのか戸惑ってるのかどちらに受け取っていいのかわからないけど、パニクってることに違いないらしい。

「真、とりあえず落ち着いて」

ポンポン、と背中を撫でてやると、ようやく落ち着いた真。
ここまで動揺されると俺もどうしていいのかわからない。それにある程度は予想していたけど、ここまで想像を超える範囲の動揺振りでは指輪を渡すタイミングすら見つからない。

きっと、真の中で“結婚”なんて言葉はなかったんだと思う。
こんな真だから、好きで付き合って、その上で同棲もして、それが幸せで、未来のことなんて考えてなかったんだと思う。
現状を一番に考える真のことだから、一度も考えなかったに違いない。だから俺がプロポーズしたってピンとこなくて、あの反応だったんだと思う。
これは一度保留だな、そう決めて笑いかけた。

「別に急に思ったことじゃないし、急いでるわけでもない。プロポーズしたからすぐに結婚しましょうって言ってるわけじゃない。ただ、俺の気持ちを伝えたかっただけだから」

驚いた表情のままの真の頬に軽く口付けをして、ポケットから指輪を取り出した。

「返事はまだいい。でも真が少しでも考えてくれるなら、これは受け取ってほしい」

小さな箱を取り出し、真に渡す。そっと手を伸ばした真の手の平にそれを乗せると俺の顔を見た。

「開けていいよ」

そういうと恐る恐るとその箱を開ける。
全部開いて指輪を見た瞬間、俺と指輪を何度も交互に見てから首を傾げた。なぜか喋ろうとしない真に俺はフッと笑って、箱の中から指輪を取って、真の左手を掴んだ。

「俺がこの指輪を買ったのは、さっきの言葉通りだ。真の返事はまだいい。でも、これを受け取るってことは答えを前向きに考えるってことになる。意味わかるよね?」

真はコクリと頷いた。

「ここに、はめてもいい?」

真に問いかけると、一度俺を見つめて、指輪を見つめて、少し間を置いて小さく頷いた。その行動に笑みがこぼれる。

「よかった、ぴったりだ」

指輪はいらない、と言われたからサイズが聞けなくて、直感で購入したけど、サイズが合ってよかった。
真は自分の左薬指にはめられた指輪をじっと見てる。

「デザイン、気に入らなかった?」

石の付いた指輪は家事をしてくれてる真に邪魔になるといけないからシンプルで石を埋め込んでるモノにした。

石は真の誕生石。そして、裏には俺からのメッセージ。
何を書いたかは真が気付くまで教えるつもりはない。ただシンプルな言葉で伝えたいことを彫ってもらっただけ。それは俺の夢で、真と一緒に生きていく中で一番大切なことだと思っている。

真は首を横に振って、小さく「ありがとう」と言った。
とりあえず指輪は渡せた。それだけで俺は満足だ。

返事が返ってこないのは予想の範疇だったし、俺が真と生涯を歩んでいくつもりでいることを知っていてもらえれば、今回はそれでいい。

いつか・・・それは明日かもしれないし、明後日かもしれない。一ヵ月後かもしれないし、三ヵ月後・・・になるまでには気付いていてほしいけど、いい返事がもらえるときを楽しみにしていようと思う。

それにこのプロポーズは絶対に失敗はない。こんな言い方は悪いかもしれないけれど、先に断れない理由が発覚するに違いないし、それがわかればきっと真も素直に返事をくれるだろう。そうすれば、俺は真の全てを手にすることが出来る。