「傍におれってなに?」

急に話し始めたと思えば、言い方の違いか強制的に言ったように聞こえるのは俺だけ?方言って怖い。

「卒業しても家賃半々がいいねって?」

なに、言ってんの?いや、なに、言ってんの?なんで泣きながら怒ってんの?
もしかして、もしかして、こんなことあるはずないと思ってたけど、もしかして、真って超鈍感ちゃん?
『傍にいて』って言ったら、そういうことじゃないんだろうか。ルームシェア続行宣言になっちゃうのか?いや、でも俺はさっき告白したと思う。
真の発言と行動の全てに困惑する。

向き合ってた体勢だったはずの真が俺の上から降りて、部屋を出ようとする。

「ちょっと待って。真、泣かないで」
「うるさいな!」
「真」
「もう、離してって」

腕を掴んだ俺の手を振り払おうとした瞬間、真を抱きしめた。
泣きたいのはこっちの方だけど、このままで終わらせたくない。ていうか、噛み合ってない状態でよく会話続いたな。それが誤解の原因でもあるんだけど。

真を抱きしめたまま大きく息を吸い込んで覚悟を決める。噛み合ってなかったのは予想外だけど、もう一度チャンスを貰ったと思って強く動き始める心臓を抑えた。

「真、一度しか言わないからよく聞いて」

俺の言葉のあとに顔を上げようとした真の頭を胸に押さえつける。今、顔を見られたら最後までちゃんと言えそうにないから。
ふぅ、と息を大きくはいて再び腕の中にいる真を抱きしめる。

「真が好き。だから、卒業しても一緒にいたい。真が好きだから、傍にいてほしい。これは同情なんかじゃない。俺は本気で真のことが好きなんだ」

あぁ、泣いちゃった。てか、泣かせちゃった。
嬉しいのか、悲しいのか、真の気持ちが俺にはわからない。でも、この感じは期待していいとみた。
無意識だろうけど、俺の服を掴んで離さない。“期待”とか言っても、ちょっとした確信はあるんだ。

のら猫のようになかなか懐かない真。負けず嫌いで弱い所を見せない真。人の前で無防備に泣くなんて、それこそ以っての外。女友達にすら見せない表情を俺に見せた。
それだけの事だけど、“それだけ”の事が真にとって、どんなに重要でどんなに意味のあることなのか、それは3年一緒に過ごしてきた俺だけがわかること。

自惚れなんかじゃない。女にも見せない真が男の俺に“心を開く”というのは、それなりの“意味”があるっていうこと。

なかなか話さない真の様子が気になって腕の力を少し抜くとスルリと座り込んだ。同じ高さに合わせると、俺の肩にコトンと頭を預けた。

「圭一」

ふいに名前を呼ばれてドキッとする。

「ふふっ、心臓はや」

好きな女に名前呼ばれてときめかない男なんていないだろうよ。

「圭一」
「・・・」
「無視か。別にいいけどさ」
「・・・」
「この香水、大好き」

・・・香水かよ。
思わず溜息吐くところだった。