「ちょっと、圭ちゃん」
「後藤、その服脱いでこれに着替えて」
「はーい」
「ここで着替えんな。で、真の部屋で寝ろ」
「はーい」
「後藤は面倒みるから、お前は帰るなら帰れ。いるならソファで寝ろ。ほら、布団」
「いやいや、圭ちゃん」
「俺、寝るから邪魔すんな」
「え〜...」

ベッドに腰掛けて、うとうとしながらドアの向こうの掛け合いをぼんやり聞いてた。

あの温厚な圭一が珍しく怒ってるから相当眠いんやと思う。
思わず笑っちゃうくらいご機嫌ナナメ。

「真、寝てないの?」

数秒前とは激変したいつもの優しい圭一が部屋に入ってすぐ声を掛けてくれる。
ドア側、手前に座ってたからその反対側に圭一がまわって、後ろから抱えるように寝かせてくれる。
引っ張られてるけど、動かなくていいから超らくちん。

寝転んだら布団もかけてくれて、圭一が隣に寝転ぶと腕枕してくれて、ぎゅっとくっつく。

「後藤に真の部屋着貸して、ベッドで寝かせた」
「うん。アヤちゃんは?」
「さあ?でも真の使ってない布団貸した」
「うん、大丈夫」

腕枕してくれてる方の手で髪を触りながら、さっきと全然違うトーンで教えてくれる。

ここずっと各々遊んで過ごしてたから旅行で居ない時もあったし、朝帰りもあって朝夕逆転生活で少しすれ違ってた時もあった。
でもそれなりに気にしあって、寝顔を覗きにきていたのも知ってるし、あたしも見に行ったりしてた。

一緒に住んでても、同じ時間を過ごしてなくても、毎日忘れることなくお互いを気遣っていられることが嬉しくて、気遣ってくれていることがとても嬉しい。

「圭一」
「ん?」

恋人になって日は浅くても、過ごしてきた時間でお互いを深く信頼していられる。

「おやすみ」

開かない目を無理やり開けて圭一の顔を見る。
相当眠そうだったから寝顔を見れるかと思っていたのに目が合った。

寝る前に顔を見れて、今日は圭一の部屋で寝るから起きた時もきっと顔が見れる。
なんて幸せなんやろう。
自然に口元がゆるんでしまう。

「おやすみ、真」

マンガみたいに額にキスしてくれる。
幸せかよ!と溢れる幸福感と圭一の腕に包まれる。

「圭ちゃーん」

・・・なのに、空気の読めない奴がいるというのは本当にもう...最悪。

圭一も舌打ちをして、「なんだよ」と今まで聞いたことないくらい低い声で言う。

「...開けていい?」
「なんだよ」

失礼しまーす...と申し訳なさそうにドアを開ける音がしたけど、あたしは圭一にくっついて半分夢心地だった。

「マジでごめん...あの布団、真ちゃんの匂いでやばいんだけど…」
「変な気起こすなよ」
「めっちゃいい匂いなんだけど...」
「じゃあ帰れよ」
「帰らねぇし。おやすみ」

ゆっくりと閉まったドアに向かって「なにしに来たんだよ」と言う圭一。

アヤちゃんもごっちゃんに付き合わされて寝てないし、朝だから頭がおかしくなってるんやと思う。
もう今日はしょうがない。

少しの無音のあと、何か思ったのか舌打ちが聞こえたけど、ぎゅっと抱きしめられたから寝る体勢に入ったんだと思う。

長い息を吐き、次第に一定のリズムで呼吸する圭一。
あたしも完全に落ちちゃおうと、思考をストップさせた。