「カムパネルラ、早く行くよ!」
 ジョバンニは、俺の手を掴み走り出した。
 駅から星が流れる最初場所へ向かう人たちを掻き分けながら、ジョバンニに引っ張られるようにして俺も走り出していた。少し開けた広場には、驚くほどの人がいた。広場に集まった人たちは、空から降り注ぐ星に群がっていた。
 俺はその人たちに圧倒されるだけで、何も出来なかった。何をしていいのか分からずに、星に群がる人たちを見ている時少し先にシリウスの姿があった。
 シリウスもまた俺たちに気づき手を振り、手招きをしていた。
 「ジョバンニ、シリウスが呼んでるよ。」
 ジョバンニは、俺の言葉なんて気にしないといった感じで振り返りもせず、何も答えてくれなかった。それでも、俺の手を掴んだまま歩き続けていた。
 まるで、記憶の結晶に群がる人を拒絶するかのように。
 「ジョバンニ、少し止まってよ。」
 俺がどんなに声をかけようとも、彼は振り返らない。
 それでも、俺の言葉を聴いてくれたように彼は足を止めた。
 「早かったね。」
 俺の言葉を聴いて止まってくれたのではなかった。
 「呼んだのは僕だけど、もっとゆっくり町を見てきてもよかったのに。」
 シリウスの言葉を聞きながら、さっき歩いてきた広場を見下ろす。広場にはまだ、星を手にいれようとしている人たちが沢山いた。
 記憶の詰った石にどれだけの価値があるのか分からないけど、広場にいる人たちにとってはその石が全てのようにも見えた。