「そろそろ一実が動く頃ね...。」
と、武田真夏は言った。

武田真夏、甲斐地区躑躅ヶ崎女子高等学校三年。
愛くるしい表情が魅力的な美少女だ。

本人は、
「自分は頭が大きい...。」
と、頭の大きさに少しコンプレックスを持っているようだが、実際は、そんなに大きくはない。
真夏の軍のカラーは赤で、車はフォード・マスタングGである。

━━上杉一実の軍が、善光寺周辺と妻女山の二手に分かれて陣を構えている頃、真夏の軍は川中島に来ていた。

上杉一実の軍、一万三千人。
武田真夏の軍、二万人。
三万人もの女生徒が、ここ川中島付近に集まっている。
ちなみに、一実の軍のうち三千人は、善光寺周辺に配備されている。

「━━真夏様。」
ある家臣の女子高生が、真夏に近付いて来た。

━━躑躅ヶ崎女子校二年、山本優里(やまもと・ゆうり)。
小柄な体型に茶髪のストレート、少しトロンとした感じの目が可愛らしい少女である。
真夏の家臣で、甲斐地区や信濃地区では有名な名軍師(めいぐんし)であり、例の《武田二十四将》の一人でもある。

━━軍師とは、大名のサポート役として戦略を練ったりする立場の者である。
ちなみに、上杉一実の家臣、直江かりんも名軍師である。

「優里、どうしたの?」
真夏は、優里を見た。

「上杉は、妻女山に陣を構えているようです。」
と、優里が言った。

「なるほど、妻女山からなら、川中島全体が見渡せるからね。」
と真夏が言った。

「━━私に策がございます。」
と、優里が言った。

「どんな策?」
真夏が訊く。

「軍を二手に分けて、一方が妻女山に攻撃を仕掛けます。
上杉の軍が妻女山から、川中島に逃げ降りて来た所を、もう一方が迎え撃ちます。」
と、優里は説明した。

━━ちなみに、この戦法を《啄木鳥(きつつき)戦法》と言う。

「良い策ね、やってみましょう。
優里は、妻女山をお願いね。
四千人の女生徒を預けるわ。」
と、真夏は快諾した。

「有難うございます。
直ちに準備致します。」
と言って優里は、その場を離れた。

「━━真夏様、どうぞ。」
と、別の家臣が真夏に何かを差し出した。

それを見た真夏は、
「有難う。」
と、ニコッとした。
家臣が差し出しのは━━木箱に入った高級マカロンだ。

そしてマカロンを手に取ると、
「可愛い...。」
と、マカロンに話しかけるように言った。
それから、
「チュッ」
っと言って、マカロンに軽くキスをしてから食べた。

真夏はマカロンが大好物なのだ。
マカロンとか大福など、小さくて丸い食べ物に、
「可愛い。」
と言ってから、軽くキスをして食べるのは、真夏の癖である。


「━━かりんちゃん...」
と、一実が言った。

「はい。」
かりんは、一実を見た。

━━ここは妻女山の一実の陣。
「何か、嫌な予感がするの...。」
と、一実が言った。

「一実様もですか?」
と、かりんも言う。

二人共、何かを感じているようだ。

「━━それに...。」
と、かりんが続けた。

「ん?どうかしたの?」
一実は、かりんを見た。

「川中島方面に霧が出てきそうです。」
空を見ながら、かりんが言った。

「......。」
一実は、少し考えてから、
「妻女山を川中島方面に降りよう。」
と言った。

「かしこまりました。
善光寺周辺の配備は、どうなさいますか?」
と、かりんが訊く。

「そのまま待機してもらって。
状況によって、妻女山を攻撃して貰うかも。」
と、一実は答えた。

「かしこまりました。」
と言って、かりんは立ち去った。

━━説明が遅れたが、上杉一実は黒髪ストレートが良く似合う美少女だ。
一実の軍のカラーは黒で、車は偶然にも真夏と同じ、フォード・マスタングGである。
ちなみにマスタングとは《野生馬》を意味する。
一実の黒のマスタングと、真夏の赤のマスタング...。
上杉の騎馬隊と、武田の騎馬隊といったところか...。

一方、直江かりんは、肩までのセミロングの茶髪が似合う美少女である。
乗っているバイクは、黒のホンダ・VFR400Rだ。

━━そして、一実達は妻女山を降り始めた。

川中島方面が薄暗くなってきている。

一実は、チャンスだと思った...。