━━この時代は各地で争いが起きていた。

太陽3年5月のある日...。

佑美が愛未と同盟を結んでいる頃、ある地区を巡って、二人の美少女が対立していた。

越後(えちご)地区春日山(かすがやま)女学院三年の上杉一実(うえすぎ・かずみ)と、甲斐(かい)地区躑躅ヶ崎(つつじがさき)女子高等学校三年の武田真夏(たけだ・まなつ)である。

ある地区とは...。
━━そう、長野県信濃(しなの)地区の川中島(かわなかじま)である。
本来、この信濃地区は細かく分かれていて、規模は小さいが、それぞれに大名がいる。
そこへ甲斐の真夏が、侵攻して来たのである。
真夏も悪気があって、攻め込んで来ている訳ではない。

この時代、他の地区へは自由に行き来が出来ない。
他の地区へ行きたい場合は、その地区の大名と同盟を結び、《通行許可証》を貰うか、その地区を制圧して自分の支配下に置くしかない。
今川美波が三河地区を支配下においているように...。
━━佑美と愛未の会見のように、相手の大名の許可がある場合も可能だ。

そして真夏には、もう一つの夢というか、野望があった。

「京に上って天下に号令をかけ、更に自分の可愛さを全国に知らしめる。」
というものだ。

真夏は美波と同盟を結んでいるので、駿河方面には攻め込めない。
そこで信濃地区経由で、京に上る必要があった。

「信濃を手に入れれば、美味しい信州蕎麦も食べれる。」
そう思い、信濃地区に侵攻して来たのだ。

一方、一実の方は全くと言っていい程、欲がないのだが、信濃地区の大名達から助けを求められ、真夏と対立するようになった。

信濃地区は主に、小笠原日奈(おがさわら・ひな)と村上陽菜(むらかみ・ひな)の、二人の《ひな》、が取り仕切っていた。

しかも村上陽菜は、真夏の進撃を二度も退けている強者である。

しかし真夏の家臣には、その数から《武田二十四将(たけだにじゅうよんしょう)》と呼ばれる有能な女子高生達がいた。
その中の一人、躑躅ヶ崎の三年、真田純奈(さなだ・じゅんな)が得意の策略を使い、小笠原日奈の支配下にある戸石(といし)女学園を、あっさりと落としてしまった。
それに危機を感じた日奈は、越後の一実に助けを求めたのである。

一方、真夏の軍勢を二度も退けた村上陽菜ではあるが、小笠原日奈の戸石女学園を落として、勢いに乗った真夏軍が、今度は村上陽菜の支配下の、葛尾(かつらお)女学院も落としたのだ。
そこで村上陽菜も一実に助けを求め、一実が二人に応える形で対立が始まった。

━━二人の対立が始まったのは、お互いがまだ高校二年生の時で、大名になったばかりだった。

そして二人は、その有能さから、それぞれ
《越後の龍(えちごのりゅう)》
《甲斐の虎(かいのとら)》
と呼ばれていた。

━━ここは、春日山女学院内の《天守(てんしゅ)》。
この時代、学校内にその学校のトップである大名、もしくは小名専用の部屋があり、生徒達からは、《天守》と呼ばれている。

一実にも有能な家臣がいた。
春日山女学院二年、直江かりん(なおえ・かりん)である。
佑美の家臣の羽柴麻衣同様、頭が良く、外交もこなせる頭脳派で、まだ二年生になったばかりであるが、一実からの信頼も厚く、春日山の家臣ナンバー1である。
将棋が得意で、よく将棋をしながら戦略を練ったりする。

「一実様、この戦は長引きそうですね。」
と、かりんが口を開く。

「うん、真夏の出かたにもよるけどね。」
と、一実が答える。

「ただ、あまり長引くのもよろしくないかと...。」
と、かりんが言う。

真夏軍とは、過去に三回の戦をしている。
真夏軍は甲斐地区の学校の他に、制圧している信濃地区の一部の学校の生徒も加わっていて数が多い。
しかし一実軍も、日奈と陽菜の軍勢が加わっている為、かなりの数だ。
両軍共、ここまでの数になると、思い切った動きが取れない。

「そうだね...。
そろそろこの辺で終わらせないと、陽菜ちゃん達も困るしね...。」
と少し間をおいて、
「かりんちゃん。」
と、一実が言う。

「はい。」
かりんが返事をする。

「善光寺(ぜんこうじ)付近に、三千人程の生徒を配備して。
私達は妻女山(さいじょさん)に陣(じん)を構えよう。」
と、一実が言った。

━━《陣を構える》とは、軍勢を配備する事である。
ちなみに、大名などの大将がいる陣を、《本陣(ほんじん)》と呼ぶ。
今回の場合、善光寺付近と妻女山に陣を構え、一実のいる妻女山が本陣となる。

「かしこまりました、すぐに配備致します。」
と、かりんは答えた。

いよいよ越後の龍、上杉一実が動きだす...。