「怜奈様!!」
一人の家臣が、島津怜奈に近付いて来た。

「どうしたんですか?」
と、怜奈が訊いた。

━━薩摩地区内(うち)女子高等学校天守。

怜奈は、豊臣麻衣の動きを気にしていた。

「毛利達の軍勢が、攻めて来ました!!」
と、その家臣は言った。

「ついに来ましたね...。」
と、怜奈は言ってから、
「迎え討ちますよ。」
と、その家臣を見た。

「かしこまりました。」
と言って、家臣は天守を出ていった。
怜奈も天守を出た。

━━廊下を歩いていると、何だかソワソワしている女生徒を見つけた。

「どうしたんですか?」
と、怜奈は声をかけた。

「あ、いえ...別に...何でもないです。」
と、その女生徒は答えた。

「話して下さい。」
と、怜奈は微笑した。

「じ、実は...。」
女生徒は申し訳なさそうに、
「今日、飼っている犬に仔犬が生まれるんです。」
と言った。

「あら、おめでとうございます!!」
怜奈は嬉しそうな顔をしてから、
「なら、何でこんな所にいるんですか?」
と訊いた。

「え?」
女生徒は、怜奈を見た。

「ワンちゃんの所に行ってあげないと。」
と、怜奈は言った。

「え、でも...。」
女生徒は、少し間を置いて、
「これから戦が...。」
と言った。

怜奈は、女生徒を見つめて、
「こういう言い方をしたら失礼ですけど、私達の軍も豊臣の軍も、ものすごい数の女子高生がいます。
今、あなたが一人抜けても、そんな極端には変わりません。
数が少なくても勝つ時は勝ちますし、どんなに数が多くても負ける時は負けます。」
と言った。

「......。」
女生徒は、怜奈を見た。

「失礼を上塗りして申し訳ないのですが、あなたは二年生、私は一年生ですが大名です。
この時代なら、私の方が立場とか役職みたいなものは上になります...。」
怜奈は、少し間を置いて、
「では、立場が上の私が、あなたのワンちゃんの所にいったところで、ワンちゃんは喜びますか?」
と訊いた。

「......。」
女生徒は黙って聴いていた。

「喜びませんよ。」
怜奈は微笑してから、
「やはり、家族であるあなたが行ってあげないと...。」
と続けた。

女生徒は、黙って頷いた。
「あなたにしか、出来ないんです。
行って来て下さい。」
と、怜奈が言う。

「あ、ありがとうございます…。」
女生徒は言ってから、
「でも...。」
と、言葉を濁した。

「どうしたんですか?」
と、怜奈が訊いた。

「動物病院の場所が遠くて、間に合いそうにないです...。」
と、女生徒は答えた。

「なるほど。」
と、怜奈は言ってから、
「どなたか車を運転出来る三年生の方いませんか?」
と、呼び掛けた。

「はい、私、出来ます。」
と、一人の三年生が近付いて来た。

「ごめんなさい。
急で申し訳ないのですが、彼女を動物病院まで送ってあげて下さい。
私の車を使って下さっていいので。」
怜奈は、車の鍵を渡した。

怜奈は一年生で運転は出来ないが、大名なので車は持っていた。
ダッチ・チャージャーDAYTONA。
怜奈の軍は黄色なので、黄色のチャージャーだ。

「行きは、ちょっと急ぎ目の安全運転で。
帰りは、ゆっくりでいいので、ガチの安全運転でお願いしますね。」
と言って、怜奈は悪戯っぽく笑った。

「かしこまりました。」
三年生が返事をする。

「こんな大事な戦の時に、申し訳ございません。」
女生徒は頭を下げた。

「“戦”っていうと聞こえは良いけど...。」
怜奈は少し間を置いて、
「ぶっちゃけ、単なる女子高生同士の喧嘩です。」
と言って、微笑した。

そして、運転をお願いされた三年生と女生徒は、動物病院へと向かった。

これが、家臣に対する気遣いトップクラスと称される、島津怜奈の神対応である。

そして怜奈達の軍は、見事に毛利まあや達の軍を撃退した。

しかし、今度は麻衣が、総勢二十万もの女生徒を動員して攻め込んで来たので、さすがの怜奈も降伏した。

━━豊臣麻衣にとって、あとは相模の北条飛鳥を攻略するだけだ...。