(これで良かったの?)
明智玲香は、悩んでいた。

織田佑美を自害(じがい)させてしまった。
━━自害とは、自ら命を絶つ事である。

本当に、佑美の命を奪いたかったのか?
他に方法はなかったのか?
これが望んだ結果なのか?

━━しかし...もう遅い...。

玲香は、佑美の事を思い出すのが怖くて、佑美に関わる物を、この世から消したかった。

玲香の軍は、南近江地区の安土女学園へ進軍して、安土女学園を焼き払った。

━━佑美の事を想い過ぎた...。
その想いに押し潰されていた...。
佑美の笑顔を自分だけに向けて欲しかった。
ものすごく純粋な想いが...膨らみ過ぎた...。
(佑美様...申し訳ございません...。)


「麻衣様!!」
石田絵梨花が慌てた様子で、麻衣の元へ駆け寄った。

「どうしたの?」
と、麻衣が訊く。

━━岡山県備中(びっちゅう)地区備中高松(びっちゅうたかまつ)女学院付近。

羽柴麻衣は、毛利まあやの支配下にある備中高松女学院を攻めていた。
備中高松女学院の周りに堤防を築いて、近くの足守川(あしもりがわ)の水を引き込んで《水攻め(みずぜめ)》にしていた。

備中高松女学院は、低湿地の沼地に建てられている学校で、攻め落とすのが難しいと言われている学校だが、その湿地帯を逆手に取った戦法である。

麻衣は、あと数日で落とせると思っていた。
そんな矢先の出来事。

「玲香様が謀反を起こして、佑美様を討ちました!!」
絵梨花が言った。

「!?」
麻衣は驚きを隠せなかった!!

━━明智玲香が織田佑美を討った...。

「ゆ...佑美...様が...。」
麻衣は、呟くように言った...。

「麻衣様、いかが致しましょうか?」
絵梨花が訊く。

「......。」
麻衣は少し考えてから、
「毛利軍に和睦(わぼく)を提案して。」
と言った。

和睦とは、争いをやめて仲を修復するという意味である。

そして麻衣は、まあやに対し、
《岡山県備中地区・美作(みまさか)地区・鳥取県伯耆(ほうき)地区の三地区を羽柴麻衣に渡せば、校内の生徒の命は助ける》
と和睦条件を提示した。

━━麻衣は焦っていた。

織田佑美が討たれた事が、まあや達に知られると、形勢が逆転してしまう可能性もある。
絶対に知られてはならない。
その為、和睦をしてでも戦を終わらせる必要があった。
限界にきていた毛利軍は、和睦に応じた。

━━和睦に成功した麻衣は、全軍を一気に山城地区迄、大移動させた。

その距離、約200㎞。
備中などが中国地方になる為、この麻衣の行動は後に、《中国大返し(ちゅうごくおおがえし)》と言われた。

━━今はインターネットの発達した時代...。

《織田佑美が明智玲香に討たれた!!》

この事は、あっという間に全国へと広まった。

「七瀬様、大変な事になりましたね。」
本多花奈は言った。

「佑美さんが討たれるとは...。」
徳川七瀬は言った。

「私達は、織田佑美様と同盟関係です。
明智に狙われるかも知れません。」
と、花奈は言った。

━━七瀬達は、佑美に誘われて、摂津地区で観光をしていた。

そこに、明智玲香の謀反。
七瀬達はピンチに陥った...。

「とりあえず、三河に戻らないとね…。」
七瀬は言った。
「はい..。」
花奈は言った。

玲香達に見付からないように戻るには、三重県の伊賀(いが)地区を抜けた方が良い...。

しかし、伊賀地区は山道が険しく、慣れていないと越えるのは難しい。
七瀬達は悩んだ。

「━━私達が、ご案内致しましょうか?」
と、声を掛けて来た女生徒達がいた。

三重県伊賀地区伊賀上野(いがうえの)女子高等学校の生徒達だ。

「え?」
七瀬は考えた結果、彼女達に頼んだ。

最悪、彼女達に討たれても、玲香達に
討たれるよりはマシと考えたからだ。

━━彼女達のおかげで、七瀬達は無事に三河に戻る事が出来た。

━━本能寺の変から数日後。

京都府山城地区山崎(やまざき)。
ここで玲香の軍と麻衣の軍が衝突した。

その数、
玲香の軍一万六千人。
麻衣の軍四万人。
━━玲香達に勝ち目はなかった...。

玲香と麻衣は向かい合った...。

「佑美様は、あなただけを大事にしてた...。」
涙ながらに玲香は言った。

「佑美様は、玲香さんの事を気にかけてました...。」
麻衣は玲香を見て、
「玲香さんの事を心配して、待機にしたんです。」

と続けた。
「...う、うそ...?」
玲香は言った。

「本当です...。
それなのに...あなたは...。」
麻衣は言った。

「佑美...様...ごめん...なさい...。」
玲香は泣き崩れた。

そして玲香は自害した...。

明智玲香、高校三年生。
純粋に人を愛し過ぎた少女だった...。