武田真夏が、この世を去って間もなく、“それ”は、上杉一美にも迫っていた。

真夏と同じように、度重なる戦などから来るストレスや疲労などが、一美の身体を蝕(むしば)んでいた...。

━━越後地区春日山女学院付近の病院。
一美は、病室で寝ていた。
直江かりんが付添っている。
「かりんちゃん...。」
と、弱々しい声で一美が言った。

「なんでしょうか?」
と、かりんが言った。

「私も、そろそろかもね...。」
一美は手を差し出した。

「何をおっしゃってるんですか...。」
かりんは、一美の手を握った。

「向こうの世界に行ったら...また真夏と勝負しようかなぁ...。」
一美は、悪戯っぽく笑った。

「一美様...縁起でもない事を...。」
かりんは、涙を堪えて笑って返した。

「し、史緖里(しおり)の事を...お願い...してもいい...?」
と、一美は言った。

「一美様が卒業されたら、史緖里様にお仕えするつもりです。」
と、かりんが言った。

━━上杉史緖里(うえすぎ・しおり)は、春日山女学院二年生で、一美の妹だ。

「うん...お願い...ね...。」
一美は言ってから、
「か...かりんちゃん...。
今まで...あり...がとう...。」
と続けた。

「はい。」
と、かりんは頷いた。
そして、一美は静かに目を閉じた...。

上杉一美、高校三年生。
《義理》と《人情》という言葉が良く似合う、真っ直ぐな美少女は、永遠の眠りについた...。


━━安土女学園天守。

上杉一美がこの世を去ったが、佑美にはまだ、立ちはだかる強敵がいた。

広島県安芸(あき)地区吉田郡山(よしだこおりやま)女子高等学校三年、毛利まあや(もうり・まあや)である。
茶髪のショートが良く似合う美少女だ。
文武に長けていて、更に安芸地区が海に近い事もあり、モーターボートや小型船舶を巧みに操り、海上戦も得意とする。
まあや率いる毛利水軍(もうりすいぐん)は、全国トップクラスの実力だ。

まあやの車はマツダ・センティアで、色は山吹色だ。

━━足利理々杏が将軍時代に仕掛けた、佑美包囲網の呼び掛けに応える形で、佑美と対立していた。
佑美が石山女学院を攻める際、石山女学院が海に近い為、海側からも攻めたのだが、その時には、本願寺側に加勢して、佑美を攻撃して来た。

毛利水軍は手強く、石山戦争が長引く原因の一つになった。
佑美が天下を統一する為には、絶対に倒さなければならない相手である。

「麻衣、玲香。」
佑美は、羽柴麻衣と明智玲香を呼んだ。

「はい。」
と、麻衣が佑美の所へやって来た。

「お呼びでしょうか?」
続いて、玲香もやって来た。

二人とも安土女学園に来ていたのだ。

「麻衣、安芸の毛利を討って欲しい。」
と、佑美は言った。

「かしこまりました。」
麻衣が返事をした。

「私(わたくし)は、何をすればよろしいでしょうか?」
と、玲香が訊いた。

「玲香は、坂本(さかもと)女子高で待機をして欲しい。」
と、佑美は言った。

坂本女子高等学校は、南近江地区の学校で京都がある山城(やましろ)地区とも隣接している要(かなめ)の学校だ。

「かしこまりました、すぐに待機致します。」
と、玲香は言った。

そして玲香は、天守を出ていった。

「━━玲香の事、どう思う?」
と、佑美は麻衣に訊いた。

「凄く真面目で、賢い方だと思います。」
と、麻衣は答えた。

「そうだね。」
と、佑美は微笑した。

「ただ...。」
と、麻衣は言った。

「どうした?」
佑美が麻衣を見る。

「少し真面目過ぎるので、色々と思い詰めて、潰れてしまいそうな気がします。」
と、麻衣は答えた。

「麻衣もそう思う?」
と、佑美が訊いた。

「はい。」
と、麻衣は答えた。

「私も、そう思ってるんだ。
だから、今回は遊軍(ゆうぐん)という形で、少し気持ちと身体を休めて貰おうと思って、待機にした。」
と、佑美は言った。

「あら?佑美様、私のお休みは?」
と、麻衣は悪戯っぽく訊いた。

「べー。」
佑美は、麻衣に向かって舌を出した。

そして、二人は笑った。

その時、麻衣は思った。
(あと少しで、この戦乱の世も終わりそうね...。)


━━天守を出た玲香。

(佑美様は、いつも私より羽柴さんを先に呼ぶ...。
勿論、付き合いが長いのも分かるけど...。
それに、私は待機...。
もっと、佑美様のお役に立ちたいのに...。
......!?
もしかして...私...嫌われてるの...?)

少しずつ少しずつ、玲香の中の歯車が狂い始めていた...。